あれは10月6日の夜11時過ぎのことだ。
東京での研修を終えて
札幌駅に戻ってきた。
地下鉄に乗って帰る元気はないな
と思い改札口を出てタクシー乗り場に向かったが、
すぐ横の点字ブロックを
杖でつたいながら一人の女性が歩いていた。
私より少し年上だろうか
目が見えないようだ。
なんだかふらついていて
私は大丈夫かなと少し離れて歩いていたが
南口を出たところで
声をかけてみた。
『どちらに行かれますか』
彼女は
『タクシー乗り場です』と答えたので、
『宜しければお手伝いしましょうか』と聞くと
『はい、お願いします』とのこと。
彼女の左手を私の右手に回そうとしたら、
『肩を貸してください』
と言ったので私は彼女の左手を
私の右肩に乗せた。
看護婦をやめて30年以上経つ
援助の仕方はぎこちなかったが
彼女は明るく
『タクシーいっぱいいますか?』
『待ってる人はたくさんいますか』
と聞いてくれて、
ちょっとの間だけど、
心が繋がった気がした。
タクシー乗り場には誰も待ち人はおらず、
一番前のタクシーのドアが開いていたので、
『すみません、こちらの方は目が見えないので
少しお手伝いください』
と運転手さんに言うと、
その運転手さんはこちらをみたけれど
動く気配がなかった。
片開きドアでうまく彼女は乗れず
私も援助の仕方がわからない。
もう一人いたら
座席に誘導できそうだったので、
『すみません、手を貸して貰えますか』
と言ったけれど、
運転手さんは動かなかった。
その時その女性が言った。
『私、この車に乗るのは嫌です』
私は、
『後ろのタクシーに行きましょう』
と言って彼女を誘導しながら
後ろに停まってるタクシーの窓を
トントンして
『乗せてください』
と頼んだ。
スライド式のドアが開き
彼女は乗れた。
『この方は目が見えないので
よろしくお願いします。』
と、運転手さんに頼むと、
『はい、分かりました』と答えてくれた。
彼女は私に、
『ありがとうございました。さようなら』
と言い、私も『じゃあ!』と言って
笑って別れた。
このあと私は
最初のタクシーに乗ったが
その話はまた明日。
私はこの時に思ったのだ。
私なら『この車には乗りたくないです』
と言えただろうか。
無理して乗って
ずっと不安の中にいたのではないだろうか。
そして
私の行動は彼女を勇気づけできたろうか
自分の気持ちをちゃんと伝えることも
自己への勇気づけ。
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