10月の下旬
羽田空港で入った喫茶店で珍しくプリンを注文した。
私は甘い物はなくても生活できる人間で、
なぜあの時プリンを頼んだのか不思議だが
そのプリンは思いの外美味しかった。
昔風の正真正銘のプリンだった。
私の母は料理上手で
物心ついた時には、
誰かの誕生日、クリスマスなど
家の行事には母の手作りデザートも
必ず並んだ。
その中で私の1番の好物は
三段重ねゼリーだった。
板ゼラチンを使って
みかんの缶詰、牛乳、ココアの
三段重ねゼリーにする。
母がそれを作り出すと
いつもワクワクした。
まだ冷蔵庫のない時は
それは冬だけのお楽しみで
青いバットに雪を入れ
その中でゼリーを冷やした。
ある時、
母がプリンを作ってくれた。
多分不二家ができて
プリンが出回り始めた頃だ。
カラメルソースを作り
卵と牛乳を合わせて
蒸し器で蒸す。
オーブンなんて家になかった。
母のプリンは本当に美味しくて
家族中無言で食べていた気がする。
羽田で食べたプリンは
母のプリンより少し硬かったが
子どもの頃食べたプリンの味がした。